“指パチサロン”探訪記

10帖ほどの畳の部屋で十数組の二人組が向き合って正座している。
沈黙の中、部屋中に響き渡るのは、およそ二百本以上の指がぶつかり合う、「パチ、パチ」という音。
一つ一つの音は小さいのだろうが、これだけ人数の人数になると侮れない。
案内される前、部屋の外で待機していた時は、部屋の中で印刷機か何かが稼働しているのかと思ってしまったほどである。
音の次に、手の動きに目を奪われた。
一秒間に三回以上だろうか、目にも止まらぬ高速で、お互いの指を交互に叩きあっている。
時折、自分で自分の左右の手を”パン”とぶつけていて、その時には特別大きな音がする。
三十~四十代くらいの男性が多い印象だ。
プレーヤー(?)に話を聞きたかったが、みんな真剣そのもので、とても話を聞けるような雰囲気ではなく、
30分ほど見学した後、サロンの運営者の男(年齢不詳)に話を聞いた。

“ルールは簡単、小学生でも出来るさ。まず、左右両方の手とも一本の指から始める。
交互にお互いの指を叩きあって、叩かれたら相手の叩いた指の本数の数だけ自分の指の本数を足す。
5本になったらその手はアウト。まあ、もう一方の手から分割はできるけどさ。
6本以上になったらその本数から5を引いた数の本数に戻る。”

「時々自分で自分の左右の手を”パン”とぶつけているのは…?」

“あー、そうそう、それを分割っていうのさ。
例えば、左手が4本、右手が1本の時に、左手3本、右手2本にしたいと思ったら、
自分で自分の指同士をぶつけるのさ。
その瞬間の相手の反応がたまらないね。”

「何であんなに素早く指を叩きあっているのか…?」

“勝利の方程式ってやつがあってね。勝ちのパターンは決まっている。
お互いそれを分かっているから、相手のミスを誘うしかない。
だから、とにかく高速でやんなきゃいけないのさ。
俺の指を見てみろ、真っ赤に擦り剝けてるだろ?
一回の試合が終わるまでに、3時間くらいはざらなんだよ。
その間、千回以上お互いの指をぶつけ合うんだ。
長期戦で徹夜なんかすると、両手が血だらけになるぜ。”

「ちなみに、この競技の名前は…?」

“無いよ。ていうか、あんの?”

私は、指のぶつかり合う独特な音から、この競技を”指パチ”と命名した。
筆者が勝手に名付けたもので、公式ではないので、サロンに行っても、口にしないようお願いしておく。
この記事で紹介した”指パチサロン”は京王線柴崎駅から徒歩15分の閑静な住宅街の中にある。
完全予約制で、公式HPから予約可能とのこと。
「一心不乱に打ち込める何かを求めている人」は大歓迎だそうだ。

※この記事はフィクションです

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