普段テレビは観ない私だが、毎年この時期になんとなく観るテレビ番組がある。
それはNHKで放送している「甲子園」である。
各都道府県で行われる地方大会を勝ち上がってきた全国の高校の野球部が集まり、頂点を決めるために戦うトーナメント形式の全国大会である。
兵庫県西宮市にある”甲子園球場”という野球場で行われるために「甲子園」と呼ばれる。
ここで野球のルールはよく知らないから、といってブラウザバックをせず読み進めてくれたら、非常に嬉しい。
野球のルールを知らなくても分かる、一般的な話をする。
今年の甲子園で印象に残った試合がある。
といっても、大体私は夕方~夜しか家にいないので、どこの試合か分かってしまう方もいるかもしれないが、とりあず話を進める。
その試合では、あるチームの監督がテレビに映った。
甲子園に出場するような”強豪校”と呼ばれる高校では、高校で授業をしている”先生”が顧問として監督を務めるのではなく、大学や社会人でも野球の経験があって指導もできる監督を外部からコーチのような形で呼び寄せたりしていることが多い。
甲子園では、ベンチにいる監督が指でサインを作って選手に指示を出す姿も、特に試合の緊迫した局面でテレビの中継でよく映される。
しかし、その試合では映った監督の姿にあまり良い印象を受けなかった。
例えば、交代して出てきたばかりの選手が芳しい働きをしなかった時にあからさまに不機嫌な態度をとる姿が映り、その選手はすぐに交代させられた。
その後、何度か監督が映ったが、常に不機嫌な顔をしていたように見えた。
そのせいだろうか、試合の終盤はその監督は中継で映されなくなり、結局そのチームは負けてしまった。
実はその監督は外面は厳しいように見えるが、選手たちから見ると非常に温厚な人だったら申し訳ない。
また、昭和のスパルタ的指導を批判したいわけではない。
ミスしたら突き放したりなど、厳しい指導をした方が精神が鍛えられて、その後の人生に良い結果を与えるという意見もある。
ただ、高校生という精神的に未熟な存在に対して委縮させるような指導をすることが、果たして良い結果をもたらすのだろうかと思うと、私はそうは思わない。
ここで二つばかり、昔話をする。
私は高校生の時、管弦楽部(オーケストラ)に所属してトロンボーンを担当していた。
件の監督を見て、当時の先輩を思い出した。
その先輩はトロンボーン専攻で音楽大学を目指していて実際に音楽大学に進学した先輩で、部活以外でも個人でレッスンを受けており、当然そこらの高校生よりトロンボーンでは抜きんでた実力を持っていた。
しかし、最初は非常に厳しく、怖い先輩だった。
部室で練習せずにおしゃべりしていると、近くに来て椅子をバーンと机に叩きつけていったり、少しでもパート練習の時間に遅れようなものなら、怖い顔で説教をしてきた。
私は中学生の時も吹奏楽部でユーフォニアムを吹いていて、全くの楽器未経験者というわけではなかったが、お世辞にも上手くはなかった。
それも先輩をもどかしい思いにさせた一因だった。
先輩は非常に熱心に教えてくれたが、私はなかなか上手くなれず、先輩が頭を抱えてしまったことが何度もあった。
同じ学年で同じくトロンボーン担当で入部した女の子も、先輩とそりが合わずに3ヶ月くらいで辞めてしまった。
私も高校1年生の冬頃にはもう部活を辞めてしまおうかと、本気で考えていた。
悩みに悩んで、下校時に赤信号の横断歩道を無意識に渡ってしまい、車にひかれそうになったこともあった。
ただ、どん底の状況から急にコツを掴み、なんとか普通の高校生のレベルまで持っていった。
私自身が試行錯誤を重ねた結果でもあるが、先輩が変わってくれたこともどん底から這い上がれた理由の一つである。
もしかしたら先輩も先輩なりに悩み、誰かにアドバイスを求めた結果なのかもしれない。
先輩はいつからか丸くなって、穏やかな顔をするようになった。
そこから私は枷が外されたように色々試して這い上がれたのだと思う。
20年近く経った今となってはその先輩と交流は全く無いが、高校の時に先輩に出会って良かったと思っている。
私の人生の重要人物を5人挙げるとすれば、その先輩は間違いなく入っている。
もう一つの昔話。
これは一つ目よりは最近の話。
私は大学院を中退した後、事務センターのSV(スーパーバイザー)としての職を得た。
SVという仰々しい名前の役職ではあるが、実際は私もただの派遣社員で、先方の正社員との間に立ちながら、同じく派遣社員のOP(オペレーター)さんをまとめる役割をしていた。
そこから、SVとしていくつかの事務センターやコールセンターを転々とするのだが、どれも実にしょっぱい仕事だった。
そもそも事務センター・コールセンター(以降読みやすさのために短く”CC”と表記する)というのは、各地の支店でそれぞれ個別に処理していた作業を一ヶ所に集約し、効率化することを目的として、主にそれなりに規模が大きい企業が設置するものである。
効率化と言えば聞こえはいいが、本当の目的はコスト削減である。
お金を生まない部門にお金をかけようという会社は少ない。
CCでは、業務の繁閑や事業縮小等に備えていつでも人数の調整ができるよう、OP層には有期雇用の派遣社員や契約社員が多く雇用される。
お金をかけない部門なので、有期雇用だからといって給料が良いわけではない。
また、CCをだぶついた正社員の配属場所として使っている企業も多いように見受けられる。
最近よくあるのが、本体から子会社のCCに転籍させるパターン。
その際にどさくさにまぎれて給与体系も変えたりして、昇給の仕組みが無くなったり…というのはまた別の機会にでも話そう。
CCに配属される社員の能力や、仕事に対するモチベーションについては、想像に難くない。
CCはその構造上、優秀な人材の集まりにくい業界である。
そのしょっぱい業界で、私は約10年間戦ってきた。
私はSVとして、どうすればOPさんたちが快適に働いてもらえるかを軸に仕事に取り組んできた。
時給が低い職場では集まる人もそれなり。
無いものねだりをしても仕方がないので、どんな人でも得意なことを見つけてどうにかどこかの業務にはまらないかと思いながら、研修や日々の指導をしたりしていた。
ただ、社会に出て間もない20代のうちは自分が不機嫌な時に態度に出してしまったり、きつい言葉をかけてしまったりすることもあった。
ただ、一つ前の話の高校の先輩のように、周りを委縮させるような態度は良い結果をもたらさないことが多いことを身を以て知っていたために、後から反省することができて、フォローにまわったりすることができた。
そのおかげか、喧嘩別れした職場は今のところ一つしか無い。
今ではもう一つ段階を進めて、どのように人を褒めるかをテーマに勉強と実践を繰り返している。
ここまで記事を読んで下さった皆さんも、自分の周りにいる人間がお手本としてふさわしい人なのかどうか、今一度考えてみてほしい。
周りの人もやっているからといって、自分も同じ行動をしていないだろうか。
これが記事のタイトルの「朱に交われども赤くなることなかれ」である。
周りがおかしいと思ったら、逃げてもいいし、戦ってもいい。
俯瞰した結果、周りがお手本だと思ったら、赤に染まってもいい。
でも、何も考えずに周りと同じ色になることだけは避けよう。
このように一人一人が心がけることで、社会はもっと良くなると思う。
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