転校していったSさん

小学生低学年の時の話。
ある日の放課後、私はいつものように仲の良い友達と三人で一緒に近所の児童館に遊びに行くことにした。
ただ、一ついつもと違うところがあって、同じクラスのSさんが一緒にいること。
だから、正確に言うと三人プラス一人だ。
Sさんは私の家のすぐ近くに住んでいるのだが、下校しても家に誰もいないことが多いらしく、鍵も持たされていないのか、ランドセルを背負ったまま玄関先の階段で足をぶらぶらさせて座っているのをよく目にしていた。
今日はそれをたまたま私の母親が見つけて、一緒に児童館に遊びに行きなさいと言ってきたので、同じクラスというだけで別に仲良くもないSさんを仕方なく誘ったのである。
子ども同士の関係性を全く考慮しない、親特有の余計なお世話だ。
Sさんは児童館に来るのが初めてらしい。
当時は縄とびがブームだったので、児童館でもよく縄とびで遊んでいた。
その日はSさんに気を遣って、児童館の建物の中で遊ぶことにした。
三人とも調子が狂ってぎこちない。
部屋をいくつか廻った後、ピアノのある部屋に入った途端、学校では国語の授業の音読以外しゃべっているのを見たことが無いくらい口数の少ないSさんが、その部屋に置いてあった加湿空気清浄機を指差して「ヒ!ヒ!」ってしきりに叫び始めた。
目も飛び出るんじゃないかってくらい見開いてた。
私も二人の友達もびっくりして、Sさんをピアノの部屋から三人で腕を引っ張って連れ出した。
部屋から出るとSさんはすぐにおとなしくなった。
Sさんの豹変ぶりが幼心にも不気味で、その日はすぐに児童館から出て解散したけど、それから3日後に児童館が火事で全焼したと小学校の全校集会で話があった。
原因は加湿空気清浄機からの出火とのことで、幸いにも怪我人はいなかったらしい。
それから半年後、Sさんはいつの間にか転校していった。
しばらく学校に来てないなと思ったら、朝礼で担任の先生からSさんは家庭の事情で転校しましたとだけ伝えられた。
卒業アルバムにもSさんの写真は載っていないが、あの時児童館のピアノの部屋で見たSさんの顔は私の頭に鮮烈に刻まれている。

※この話はフィクションです。

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